もし、新規就農する方にアドバイスをひとつ求められたら、「何かひとつでいいから1番になること(ナンバーワン経営をすること)」と話すだろう。新規就農者にとって1番をとるのは難しいのではないかと思うかもしれないが、難しいことではない。
1番になるためには、他人がやらないことをやるに尽きる。他人がやらないことにはやらない理由がある場合が多いが、むしろそれが強みになり、自身の価値(アイデンティティあるいはブランド力)を高めることにつながる。
例えば辻ファームの場合、神奈川県内でアイメック栽培を始めた第1号であり、その時点で神奈川県で1番になることができた。また、偶然ではあるが、伊勢原市に他にミニトマト(フルーツトマト)専門の農園はなく、必然的にミニトマト(フルーツトマト)農家で1番になった。
マイナー野菜、マイナー品種を作ることも悪くはない。辻ファームでも、黒いトマトを作ったり、黒い人参を作ったりしたことがあったが、現在はフルーツトマト以外は芽キャベツの生産をすることに落ち着いた。芽キャベツは静岡県が収穫量が全国で93%のシェアを占めており、神奈川県収穫量のシェアは1%であるというデータが物語る事実がある。
それはこういうことだ。辻ファームでは芽キャベツを現在4反作付けしており、神奈川県で自分以上に芽キャベツを作っている農場は他にはないと思う。これは全国では1%の割合で3位でも、神奈川県では少なくとも1番であるということに他ならない。
ではなぜ、伊勢原市内にフルーツトマト農家、神奈川県内に芽キャベツ農家が少ないか。これはおそらく手間が掛かり面倒であるからだと思う。農家の多くは家族労働で雇用をしているところは少ない。フルーツトマトも芽キャベツもサイズが小さいため、収穫や梱包に時間がかかり、多くの農家は作りたがらない。このようなところにビジネスチャンスがあると思う。
例えば、糖度の高く味も食感も良いフルーツトマトが大量に収穫できても、販路が限られて困った時に生まれた「Coiinaトマトジュース」もその一例だ。その顛末は過去の記事に紹介している(記事:【第二農場での試み】汗と涙のトマトジュース【生産は計画的に】)が、他の多くの農家がやらないことを試してみることでヒット商品としてお客様に好評を持って受け入れて頂けているのもその一角だと思っている(いつもご購入頂いているお客様には感謝しています)。
コロナ禍の真っただ中、高級レストランに納めるような希少価値の高い作物を作るよりも、生活の中心となった家庭で使える少し変わった目先の新しい家庭に受け入れられる野菜を作るほうが、まだ現実味があるかもしれない。他の農家が手を出さないジャンルにこそ、飛び込む価値があることは間違いない。
要は選択と集中が鍵だということだ。「何かで1番を目指す=ナンバーワン/オンリーワンになろう」という考えは誰にでも浮かぶものかもしれないが、実際に考えながら毎日の仕事をしているかしていないかによって、数年先の経営状態に大きな差が生まれるはずだと、農業を10年継続してみてひしひしと感じている。