10年前、1粒の感動を伝えたいという気持ちから始まったトマト作り。販売のことはもちろんなにも考えていなかった。美味しいトマトが作れればそれでよかった。
美味しければきっと売れるはず。今考えればこれほど浅はかで危険な思い込みはないと思うが、幸いなことに最初から販売先はいくつかあった。販売先があったのは研修先の横浜で借りていた農場で先に就農をしていたから。横浜農場を始められたのは、お師匠が伊勢原でアイメック栽培が始動するまでアルバイトでつなごうと考えていた自分を叱咤してくれたからだ。「農家になるならまず耕して作れ」と。
まず、お師匠の直売所、懇意にしていた種屋さん、横浜農場を始めた時にお師匠から紹介してもらった関内のレストランのシェフ達。スタートダッシュをするには十分すぎるサポートをしてもらった。異業種交流会、レストラン飛び込み、マルシェ、ありとあらゆる所に顔を出すようにした。その後、JA、レストラン、スーパー、民間の直売所と販売先は増えていった。
アイメック栽培で最初から糖度の高いフルーツトマトはできた。しかし、美味しいからといって必ず売れるとは限らない。農業にとって重要なのは、美味しい作物を消費者に購入してもらい、継続した経営が続けられることだ。特に、現在は10年前の自分が新規就農した時よりもずっと美味しいフルーツトマトが世の中にあふれている。いわばトマト戦国時代だ。
これから新規就農しようと思う方はそれでもトマトを栽培品目として選ぶのかどうか、十分に検討を重ねて欲しい。