10年前、新規就農はまだ現在ほど制度も確立しておらず、農家になるための道筋も明確ではなかった。
農業を仕事にして、何度か新規就農をしたことについて取材を受けたことがある。その時に聞かれることは決まって、「脱サラして農家になるための決意や勇気」に対することだ。
結論からいうと、まず、自分にとっては会社をやめることにそれほど勇気は必要なかった。
散水機器の営業をしていたサラリーマン時代、仕事はとても楽しかった。自分の仕事に責任感はあり、顧客が困っていたら休日返上で対応した。これだけ好きで働けるなら、きっと自分で仕事をした方がいいと考え始め、自営業への転身の気持ちが芽生えた。
顧客である農家はみな生き生きとしていた。次第に農業を自分でもやりたいと思うようになった。そもそもこの仕事を始めた理由は農業に興味があったからだ。アイメック栽培を新たに始めるのは、農業未経験の方ばかり。スタートして1年後には、みなとても美味しいフルーツトマトを作っていた。
仕事を辞める不安よりも農業をやりたい気持ちが勝った瞬間だった。
私の父は定年間近にして亡くなった。定年後にやりたいことがたくさんあったのだろうと思いを馳せる。そこで自分の命も有限であると再認識したのもきっかけだったと言える。人生において仕事に割いている時間の割合はとても多い。だから仕事を生活のためと割り切ることはできなかった。待遇の良い前々職から散水メーカーに転職したのはそれが理由だ。
好きなことを仕事にするという当時の決意があったから、農業への転身も躊躇なく選択できたと思う。
当時の決断が間違っていなかったと思えるように、日々の生活や仕事を大切にしていきたい。
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